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【海坂藩同窓会設立 発起人会】(仮称)


   小説を読むと、その物語の主人公のその後が気になってしょうがない、なんてことはありませんか?


    僕の好きな「海鳴り」のおこうさんは、新兵衛さんと水戸に逃げて、その後どんな暮しぶりをしたん
    だろう?
    藤沢周平さんは、暗い作品の「冬の潮」と「石を抱く」をたしたようなこの「海鳴り」で、前2作の罪滅ぼし
    をしたのかな。
    藤沢周平さんは「海鳴り」の続編は書く気がなかったんだろうか?なかったんだろうな。
    書く気があればきっと水戸ではなくて海坂藩に逃がしただろうから。


    「暗殺の年輪」の葛西馨之介はお葉さんと無事江戸に着けたんだろうか? 
    (勝手に江戸と決めています)
    「雪明かり」の芳賀菊四郎は由乃と幸せに暮らしているのかな?
    「盲目剣谺返し」の三村新之丞のその後の暮しは?(武士の一分って映画になっちゃた。)
    「秘太刀 馬の骨」の秘太刀の持ち主は一体誰だったのか?
    出久根達郎さんが変な「なぞかけ」をあとがきでするものだから、これも気になってしかたがありません。


    たくさん登場した「海坂藩」の主人公達のその後は・・・・・?
    これも楽しく空想しています。


    「風の果て」を海坂ものとするかどうか、議論が分かれるところですが、
    僕はやはり藩の雰囲気が海坂藩だと思うし、どの本だったか周平さんの周辺本で地元山形の人が、
    「風の果て」は海坂藩だと言い切っておられたので、それに力を得て海坂藩ものとしました。
    それに桑山又左衛門たちの子供の頃の友情と、大人になってからのやや曲がった友情も、「海坂藩」の 
    匂いがするし、今の時代にも通用する心理があります。


              そこで僕は勝手に「海坂藩の同窓会」を企画しました。


              
 【海坂藩同窓会発起人会】


    海坂藩藩主、藤沢周平公のご出座をいただいて、藩の同窓会を開いて欲しいとの要望が
    多くの元藩士から持ち上がったため、急遽準備会を有志で開いたものである。
    藩内での先輩、後輩は文庫出版年次による。(従って当時の役職による敬語は使わない約束で集まった。)
    そしてそれぞれの年齢は物語が終わって10年後とした。


    (これは私の勝手な空想であり、周平ファンの方でそれぞれ、その後の主人公の歩むべき道なり、
    なるべき姿を空想されている方は、読まないで下さい。責任はもちませんよ)


         日時: 徳川時代のある年
         場所: 海坂藩城下の「湧井」の2階  
         女将: おこう(海鳴り)87年


        出席者
         青江又八郎(用心棒シリーズ)81年〜94年
         牧文四郎(蝉しぐれ)91年・三屋清左衛門(三屋清左衛門残日録)92年
         刈谷範兵衛(ただ一撃)=暗殺の年輪78年・堀源次郎(冤罪)82年
         治部新左衛門(臍曲り新左衛門)=冤罪82年
         半兵衛(かがなき半兵衛)=たそがれ清兵衛91年
  

   司会者 三屋清左衛門; 「おのおの方、今日はご苦労にぞんずる。
   集まってもらったのはほかでもない、殿様(周平公)によって取り上げられた者達が一堂に会する機会を
   作って下されと、やいのやいのと我が家に陳情に参られる方が多くてな。
   まあそれも一興と、実は今、筆頭家老になっておる佐伯に話を持ちかけてみたのでござる。
   やつめおもしろがって大乗り気になりおって、それなら殿にも申し上げて、ご出座をお願いしてみる
   などと話が大きくなり申した。
   そこでこのたび、発起人として各々方にご参集をいただいたわけでござる。
   参加を呼びかける諸氏と日時、場所などを相談したいと思いましてな。
   まあ諸氏には会いたくない者や、気まずく別れたものもおるかも知れんが、
   そこは当人よりもそんな人物を作った殿様に談判してくだされ。では打ち合わせに入ろうかな」


   一同誰も声が出ないのを見て・・・


   青江又八郎;「うーむ こう座が固くては話がはずまん。どうでござる、ちくと一献かたむけて口のすべりを
   よくしてはと思うがな。三屋のご隠居それでよろしゅうござ るかな?」


       下の調理場から小鯛を焼く香ばしい匂いが部屋に忍び寄ってきた。

   匂いに負けて・・
   清左衛門;「うむ、異論はござらん。」


   かがなき半兵衛;「おう、さすが又八郎殿じゃ。江戸で苦労されただけあってよく心得てござるな。
   わしはさっきから足はしびれるは、腹の虫は早く飲ませろと催促ば かりするは、いや我慢も峠を越え
   そうでござる」などとさっそくかが泣きを始めた。


   又八郎; 「おっ、そうじゃひとつ諸氏にお引き合わせしておく人物がござる。
         その人に最初の酌も頼むとしよう。女将、こっちへ入ってくれ。」


   フスマを開け廊下に両手をついて、やや緊張の中にも口元に微笑をたたえて挨拶に顔を見せたのは
   なんと水戸へ新兵衛と駆け落ちしたはずの、(海鳴り)の、おこうだった。


   おこう;「みなさま、おこうと申します。きょうはようこそおこしいただきました。ありがとう存じます。」


   又八郎;「実はここにいるのはおこうさんといゆうてな、ワシが江戸で稼業をしておったときのお客じゃった。
   今夫婦になっておる新兵衛さんが茶屋でおこうさんと会ったあと、おこうさんが無事に我が家まで
   帰るのを後ろからそっと見届けるのがわしの仕事じゃった。けっこう手間もはずんでもらったものじゃ。


   その新兵衛さんを海坂ご城下で見 かけたもので事情を訊いたら、
   今水戸で乾物の仲買をしておって、こちらにたまたま買い付けに来ていたところに出くわしたということじゃった。
   あれから二人で江戸を離れて水戸に落ち着き、しばらくたってから、気楽に商いを始めているらしいことは
   話の中でよくわかったのじゃが、本人達はどうもこの海坂の食い物がいたく気に入ってな、
   なんとかこちらで食い物の小店を持ちたいと相談があった。


   そこで三屋の隠居にまた下世話の相談を持ちかけてみたら、ここ「湧井」の女将が、後を引き受けてくれる
   誰かいい人はいないかと、これまたご隠居に相談をかけていたところで、トントン拍子に話がまとまって、
   今は新兵衛さんがうまい材料の買出し。おこうさんが店の切り盛りをやって、こうして繁盛して、店の建て増し
   まで出来たというわけじゃ。」


      おこうは手際よく順番に酌をしてまわる。


   鼻水が垂れている、かなりの老人のところで、「おこうでございます」
   老人;「あん?・・・三緒か?」 「いえ、おこうと申します」
   老人;「あん?・・・三緒があわれじゃ」と言いながら袖で鼻水をぬぐう。
   おこう;「????」
   半兵衛;「誰じゃ!このふらふらの老人を呼んだのは・・・?」


   牧文四郎;「はははっ、拙者でござる。海坂藩の同窓会となると、藩創立の頃の御仁も座ってもらわねば
   なるまいと思うたものじゃからな」「女将、この老人はな、(ただ一撃)の範兵衛殿と申されてな、
   藩創立のころそれこそ天狗のような活躍をなされたお方じゃ」
   「それとも半兵衛どの、(臍曲がり新左衛門の)新左衛門氏のほうを呼べばよかったかな?
   あの方も『関が原』で敵のしるしをいくつも上げた、まさにつわものじゃ」


   半兵衛はあわてて、「いやいや勘弁してくれ、あの年寄りは苦手じゃ。暑いと言えば涼しいといい、
   美味いと言えば戦場で食う物ではないなどとイヤミなことを申されるし、それに何を思ったのか
   ワシを目の敵にして、このワシを見るとコラ、かがなき半兵衛ちょっと来いと、大きな声で呼びつけて
   チクチク小言をいわれる」

   ・・・・・・・

   おこうは部屋の隅でニコニコしながらこちらを見ている日焼けした顔と目が合った。
   「まあ、源さんじゃあないの。あなたがなぜここに・・・?」
   それは「湧井」に清水村から毎日野菜を持ってきてくれる、源さんと呼んでいる男だ。
   「女将さん、実は私も元藩士でしてな、どこかに婿養子の口はないかと、いつも探しておりました」


   「・・・・」


   この男は(冤罪)の堀源次郎だった。
   「妻の明乃も、お城の勘定方に勤める藩士の娘でしたが、上司がした公金横領の罪を無理やり着せられ、
   妻の家は廃絶となり、出来ればこの家の入り婿にと勝手に思っていたのが、かなわなくなりました。」


   ここに同席しているものたちも、昔の出来事で、知っている者はいない。わずかに青江又八郎と
   範兵衛がいるだけだが、青江は江戸に逃げ、範兵衛は「あん?あん?」となっていたころだ。
   「それで明乃を探していると、清水村の百姓の養女になっておって婿を取る身と聞きましてな。
   私しゃあ、その場で婿!百姓!と決めました」


   みんなは話を聴いているのか、いないのか酒を飲んでは膳の小鯛の肉をむしって忙しく口に運んでいる。
   文四郎は赤蕪の漬物をぽりぽりやって、左隣の清左衛門となにやら談笑している。


   又八郎は「おーい、まだクチボソは焼けんのかー?」と大声で下へどなっている。
   「それにしても、ここの喰いもんはいつ来てもうまい。初代の女将『みさ』さんの心がまだ生きておるのか、
   はたまた、三屋のご隠居の指導がよいのか?」と又八郎は右隣の清左衛門を下から覗き込んだ。

   清左衛門: 「・・・・」

 
         どうも次回の打ち合わせの事は、いまの一同の頭からはすっとんでいるらしい。





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