南方録を読む




<29> 道具は亭主に正面を向ける

メンツノコボシ、トヂ目ヲ前ニセヨ、引切(ひききり)ノ蓋置モ目ヲ前ニセヨト、宗易ハノ玉フ、     
又道安ハ、トヂ目モ蓋置ノ目モ客付(きゃくつき)ニセヨトナリ、イカヤウニ決定(けつじょう)スベキカト問候ヘバ、易云、惣而(そうじて)道具ダゝミニテモ棚ニテモ、道具ヲカザリヲクニモ、炭ヲツギ茶ヲ立ルニモ、道具ヲ我身ニ対スルコト也、置合(おきあわせ)タル道具モ、客ニ見スル為ニアラズ、    マシテ所作ノ内ニ客付ニ見スルヤウニ取アツカフコト、ユメゝゝアルベカラズ、サラバ茶人モ横ヨリ客ノ見ルヤウニヲクベキヤ、コハレテ見物ニ出ス時ハ客ニ対シ面ヲムケテ出スコト勿論也、     
カヤウノ事心得ノ第一ナリ、コトニ蓋置ハ、能阿弥ノ臨済(りんざい)ヲ置テ茶立ラレシニモ、印ノ文字、我ヨムヤウニシテ、柄杓ノヱニツケヨトコソ伝授承(うけたまわり)候ヒシ、生類ナトモ同前也、     
竹ノ目ヲ客ノ方ヘムカユルナラバ、印ノ蓋置モ客ノヨムヤウニ置ベキヤ、カタゝゝ違逆(いぎゃく)ノコトナリ、メンツモ目ヲ我前ニシテ本意ナルベシト被申(もうされ)シ、



◇ 熊倉博士の語訳

面桶の建水はとじ目を手前に向けよ、竹の引切の蓋置も前にせよ、と宗易(利休)はいわれた。    ところがまた道安はとじ目も蓋置の目も客向きにせよという。どのように決めたらよいのでしょうかとたずねてみると、宗易がいわれるには、すべて、道具畳の上でも棚でも、道具を飾るにも炭をつぎ茶をたてる点前でも、道具はいつも自分に向いているものである。置合せた道具も客にみせるためではない。まして点前の最中に客向きにみせるように扱うことは決してあってはならぬことである。

【語釈】     
メンツ : 曲げ物の水指。杉の薄い板を曲げて円筒に作り、板と板を桜の皮などでとじる。      そのとじ目を手前に向け、蓋は木目が横になるようにするのが習いである。     
引切 : 竹の蓋置     
道安 : 千道安。利休の実子。



◇ 熊倉博士の解説概略

今日ではあまり問題にならぬことだが、利休以前には、道具の向きがしばしば問題になっている。 ここでの結論は、今日の道具の置き方と一致していて、あくまで道具の正面は亭主の方へ向けるべきだという利休の言葉である。

   

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