お茶が入りましたよ:トップ>茶道を愉しむ>『南方録』を読む>17 わび茶道具の取合せは不足・粗相がよい

<17> わび茶道具の取合せは不足・粗相がよい。


    小座敷の道具ハ、よろづ事たらぬがよし、少の損シも嫌ふ人あり、一向不得心の事也、今やき
    などのわれひゞきたるハ用ひがたし、唐の茶人などのやうのしかるべき道具ハ、うるしつぎして
    も一段用ひ来り候也、サテ又道具ノ取合と申スハ、今焼茶碗(ちゃわん)ト、唐ノ茶入、如此心得
    (かくのごとくこころえ)ベシ、珠光ノ時ハイマダ物ゴト結構ニアリシダニ、秘蔵ノ井土茶碗、袋ニ入テ
    天目(てんもく)同前ニアシラハルゝニハ、カナラズナツメ・今焼ナドノ茶入を出サレシトナリ、
    (原文の茶碗のワンは現在の使われていない字です。)


    【熊倉博士の語訳】


    小座敷のわび茶の道具は、万事、不足・粗相といったものがよい。ほんの少しの疵(きず)も嫌
    がる人がいるが、まったく納得のゆかぬことだ。新作の焼物などの割れてひびのはいったのは
    使えない。しかし唐物(からもの)の茶入などのようにしかるべき道具は、漆継ぎをしても一層
    大切に使ってきたのである。ところで道具の取合せというのは、新作の茶碗と唐物の茶入、
    というように心得なさい。珠光の時代はまだ格の高い道具が贅沢に揃っていたにもかかわらず、
    珠光は秘蔵の井土茶碗を袋に入れて天目茶碗と同様に扱い、そのときは必ず棗か新作の茶入
    を出したということだ。


    【語釈】

    今やき・今焼 : 新作の焼物。 伝統のある古い道具にくらべて格も価値も低いもの。
    唐の茶入 : 茶の道具のなかに大きくわけて唐物と和物とがあり、唐物は舶載品でもあり
             また陶磁器をはじめ工芸技術の数段すぐれている中国の作品が主であるから、
             道具の上位にランクされ、格の高い道具とされてきた。
             のちにはこのような唐物に対する観念が転じて時代の古い、しかもすぐれた
             道具を日本製でも唐物と呼ぶ場合もあらわれる。
    うるしつぎ : 陶磁器の割れたところを漆で継いだり、欠けた個所を漆で埋めたもの。
    井戸茶碗。 : 朝鮮製のいわゆる高麗茶碗でわび茶の茶碗としてはもっとも尊重される。
    天目 : 中国製の茶碗。茶碗のなかでもっとも高い格に扱われ、式正(しきしょう)の茶、
          すなわち台子の茶では天目が天目台にすえられて用いられる。


    【熊倉博士の解説】

 
    茶の湯のなかで一の大きな眼目は道具の取合せということだ。いわば茶の湯は道具の取合せ
    でその心を表現するといってもよいであろう。
    たとえばどの茶碗にはどの茶入れを組合せるか、そこに亭主の思想が表現される。
    ではわび茶の道具はいかに取合せるか、その大原則を利休は語った。
    「よろず事たらぬがよし」。これは無疵の道具ばかりを尊いと考えるのではなく、欠けたところの
    ある道具の美を説く言葉である。この言葉で利休は取合せのうえでも完全なものと不完全なもの
    との対照の美を説こうとしたのである。


    


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