海音寺潮五郎

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海音寺潮五郎さんを 語ってお茶を一服


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  海音寺潮五郎さんの作品が好きです。
読み始めたのは30年も前。海音寺さんが亡くなった後からでした。
最初に読んだのは中国物だったように思います。たしか「史記」にかんする作品でした。
その当時は海音寺さんを中国本の紹介者ぐらいの捉えかただったように思います。


それから、「武将列伝」「悪人列伝」「乱世の英雄」「剣と笛」・・・
武骨とも言える骨太な文章、真面目な作品の中への自分の見解。
そして嫌いなものは嫌いとはっきり書く態度。
司馬遼太郎さんを世に出し、その司馬さんとの対談など両氏が、夜を徹して語り明かす
様子が司馬さんの本で語られています。
これなど読むだけでこちらまで嬉しくなります。


海音寺さん好みの歴史上の人物がよくわかります。
共通しているのは「すがすがしさ」だと思っています。そして「筋を通す」人、「欲のない人」
なんとなく海音寺さんの生き方とダブります。
海音寺さんの作品はいつでも、何年経って読み返しても読み飽きたことはありません。
海音寺さんの趣味は、刀の蒐集でした。
そして司馬さんの本で読んだように思うのですが、家を建てるのが趣味だとか・・・


海音寺さんの作品でファンになった歴史上の人物がいます。それが「立花宗茂」です。


『立花宗茂』
海音寺潮五郎さんの短編「立花宗茂」の書き出しは・・・
「織田信長、豊臣秀吉の時代、日本には英雄豪傑が雲のように出た。
人の興亡盛衰が定まりなく、実力ある者なら、努力とウン次第でいくらでも伸びられる
時代であったからであろう。
ぼくのみるかぎりでは立花宗茂が最も見事なようだ。
自由自在に奇手の出てくるところ三国志の孔明の戦法を見るの感がある。
ぼくの彼に感心するのはそこにはない。無類の感があるのは、彼の心術の高朗さだ。
出所進退が実に清潔なのだ。」と敬愛をこめて書き始めています。


以前に同じ海音寺潮五郎さんの史伝「立花一族」を読んで戦国武将のなかで一番好きな
武将になりました。
宗茂が仕える戦後大名の「大友宗麟」は北九州にありましたが、島津家の勢力に圧され
滅亡の危機に瀕し、豊臣秀吉に援軍を頼みました。
平凡な無能な大名の宗麟がその地位を保てるのは、重臣として高橋紹運と立花道雪という、
戦上手として有名な二人の武将がニラミを利かせていたからでした。


紹運と道雪の友情も読んでいて気持ちがよく、島津家の攻撃に頑強に抵抗して壮烈な
討ち死にをした高橋紹運が好きになりました。
その紹運の子が立花宗茂です。
道雪の懇願に根負けした紹運が宗茂を立花家に出します。

道雪には美しい一人娘の「ぎん千代」がおり、宗茂13歳、ぎん千代は一つ年上の14歳
でした。


宗茂に一つ難があるとすれば妻ぎん千代との間のことです。
「ぎん千代は美しい夫人であったが、従順柔和ではなかった。
気が強くて、才気走ったところがあった。年長で、家つき娘でこうだとあっては、宗茂のような
剛直な人間とうまく行くはずがない。
夫婦なかは次第に円満を欠くようになった」


宗茂もこの妻だけは苦手で別居しており何年も顔を合わさない。しかし家臣はやはり道雪の
血筋として慕っておりムゲにはできない。


徳川家の時代として天下が治まり、宗茂は居城であった柳川城を明渡し、加藤清正のいる
肥後熊本で生活の安定を取り戻した。
しかし宗茂は世の中がどう変動していくのか見きわめたくなって、肥後を出ることになりた。
その時、どこまでも宗茂と行動を共にしたいという家来19人と京に出てきました。

19人はそれぞれに日銭を稼いで宗茂の暮らしを支えます。
ところが宗茂は日銭を稼いでいることなど気が付きません。
生来の大将です。


以下7章の一部抜粋します、私はこの部分が好きです。
『しかし晩秋初冬の頃になると、窮迫は益々ひどくなり、朝夕の食すら一同にまんべんなく
まわらなくなった。
家臣等は宗茂に普通の食膳をそなえたが、自分等はかゆや雑炊にしてすすってすませる
日もあった。


ある日、その宗茂の分さえ普通の飯にするほどの米がなかったので、雑炊にして出したところ、
宗茂は膳の上をながめ、不服げにこう言った。
「いらざることをいたす。飯のまま出せばいいのに、汁かけ飯などにして出す。
汁をかけたるがほしくば、おれが自分でかけるわ」
生れて一度も生活の苦労などしたことのない宗茂なのだ。
こうなってもなお失せない大名気質のおうようさで、何も知らないのだ。家来等は覚えず
胸がせまって涙がこぼれて来たという。


こんな境遇にあって、なお宗茂を守護して、背き去る者が一人もいないというのは、単に
封建的忠誠とか、義理の観念とかでは、解釈がつかない。そこにあるのは、義務の強制の
ない、親子の愛情、恋愛、友情に類するものであったに相違ない』


宗茂の武勇を知る諸大名から仕官の誘いがあるが宗茂のプライドが許さない。
その後、京から江戸に出てきた一行は、ある事件がきっかけで将軍秀忠の相伴衆
(しょうばんしゅう)として五千石で召抱えられます。
そしてさらに10数年後、徳川幕府は宗茂を旧領柳川の領主として戻しました。
宗茂はこの時52歳。慶長5年32歳で柳川を去ってから20年目でありました。

その時肥後から同行した家来19人の様子は、残念ながら海音寺潮五郎さんは
書いていません。


 海音寺潮五郎氏の代表作でありますが、あまり知られていないのが「二本の銀杏」です。

 「二本の銀杏」は、幕末期に近い天保年間の薩摩を背景に、肥後と国境を接した赤塚郷がその舞台です。
 赤塚郷には、村の東西に北郷家(ほんごうけ)と上山家(うえやまけ)という二つの家があり、北郷家には雄の
 銀杏の巨木、上山家には雌の銀杏の巨木がありました。
 物語は雌木の上山家から毎年雄木の北郷家に、採れた銀杏の実を届けるところから始まります。
 この北郷、上山両家の長きにわたる因縁と葛藤を、その時代の歴史背景を描き出しながら、両家の人々を中心に
 展開していきます。


 物語の主人公は、上山家の当主で、武士と山伏を兼ねる兵道家・上山源昌房(うえやまげんしょうぼう)である。
 源昌房は、農民達が貧しい生活のために相次いで逃散する農村の実状を憂い、当時の薩摩藩家老・調所笑左衛門
 (ずしょしょうざえもん)に直訴し、川内川の改修工事や農地開墾事業の許可を得て、工事の着手を始める。
 この薩摩藩家老・調所笑左衛門についても、色々書きたいことがありますが、薩摩藩の功労者・笑左衛門の悲劇の
 物語はここでは述べません。


 この川内川の改修工事を中心に、代々赤塚郷の郷士頭を勤める北郷家の当主・北郷隼人介(ほんごうはやとのすけ)、
 隼人介の妻でありながら、源昌房と不義の仲になってしまう・お国、川内川の改修に反対し、源昌房とことごとく対立する
 福崎乗之助(ふくさきじょうのすけ)など多彩な人物が登場し、幕末期の薩摩の農村の風土や生活を見事に描いています。


 海音寺さんにしてみれば、めずらしい男女間の話。
 上山源昌房と北郷隼人介の妻お国との不倫の顛末は、この物語に色を付けている。
 僕はこの二人を、スタンダールの「赤と黒」の主人公ジュリヤンと不倫相手のレナール夫人とが重なりました。
 お国とレナール夫人がそっくりだと今読んでも思います。
 また福崎乗之助が二人の関係に気がつくところからはハラハラします。
 こんなところは海音寺さんにとってはどうでもいいところだったのでしょうが、おもしろく読みました。


 海音寺文学の最高傑作とも言える「二本の銀杏」。是非一度は読んで頂きたい小説である。



 「日本歴史を点検する」 対談 海音寺潮五郎 : 司馬遼太郎
 歴史小説家の大家、二人の対談です。
 この両者は22歳の年の差があります。
 海音寺;1901年11月5日 - 1977年12月1日
 司馬;1923年8月7日-1996年2月12日)
 しかしその年の差をまったく感じさせない同級生の語り合いのようです。


 海音寺さんにとっては水を得た魚のごとく、司馬さんの話の中で奔放に語ります。
 この対話筆記は、朝の十時から夜の八時まで、途中一回の食事、一回の茶の時間があっただけで、
 お互い、飛雲に駕し、風に御し、碧落を 翔るような気持ちで、語りに語り合い、話しに話し合いつづけたことが
 速記されたものです。
 と、海音寺潮五郎の前書きに書いてある。


 それに対して司馬遼太郎は、氏とむかいあっているときのみ、自分がたしかに歴史の光景のなかを歩いているという
 実感がありありともつことができるのである。
 と、あとがきに書いてあります。


 このときばかりでなく、両者の対談はいつもこんな調子だったと想像してます。





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